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拙HP「戦国島津女系図」の別館…のはず
今までの話は こちらこちら
かなり長くなりましたが、もう少しのおつきあい宜しくお願いします<(_ _)>

(頭注)
(1)『看羊録』はいろいろな本に所収されていますが、今回使うのは東洋文庫版になります。一番図書館に置いてあるのもこれかと。
(2)[ ]→翻訳を担当した朴鐘鳴氏による補注
(3)<>→著者の姜沆自身による補注
 私が倭京から出発する日、倭僧舜首座(注1)は大丘(注2)の虜われ人金景行なる者を[通訳として]招き寄せ、密かに、次のようなことを私に耳打ちしてくれました。
「きのう、筑前中納言金吾[小早川秀秋]に会ったのですが、その言うのに、『内府[家康]は、やがて明年には再挙して、朝鮮を犯そうとしている。もしそうであれば、私もまた[朝鮮に]行かねばなるまい』とのことでした。秀吉の生きていたとき、家康は極力兵を寝める(注3)ことを主張していたのですが、今このような議論があるのは、必ずやこれは、内府と肥前[前田利長]・備前[宇喜多秀家]らとが不仲なので、彼らを平[穏にその領]地に置いておけば、変事を起こしはしないか気がかりで、それで、この輩を朝鮮に送り込むことによって、その兵[の]勢[力]を消耗させようというのです。今年の内に、肥前との和事が成立しなければ、つまり根本が定まらないわけですから、朝鮮が心配することはありますまい。もし、[和事が]成立すれば、兵を動かすこと、疑いありません。[その場合、事は]きっと明年の間に起こりましょう。朝鮮は、そのために、予め備えなければなりますまい。あなたは、帰国されても、どうか今日の[私のこの]言を忘れないで欲しい物です。朝鮮の人は、何の罪もないのに、秀吉の兵火を被りました。私は、[それを考えると]ずっと気持ちが塞がらないことがなかったのです。だから、今告げ報らせるのです」
また、医師の理安(注4)が、[小早川]金吾[秀秋]の所からやってきて、言ったことがありました。
「明年、再挙[朝鮮に出兵]し、内府は長子の三河守[徳川信康](注5)を大将とするつもりだ、とのことです」
 私は、驚きと疑いを抑えられず、出発を数日間のばして、あちこちで聞きあわせてみたところ、ある者が次のように言いました。
「今年の正月中、内府は、五万石以上の倭の[大名の]子弟を人質として関東に送るよう求めました。諸倭はあるいは養子を送り、或いは実弟を送りましたが、ただ、清正や越中守[細川忠興]らだけには、実母か実子を[送るよう]求めました。(注6)
内府がまた、元日に、倭の皇帝(注7)に王京でお目見えしようとしたところ、清正らが、武装兵を領いて先に伏見に上り、それを出迎えようとしました。内府は、それを聞いて病気である、と言って上京しませんでした(注8)。和人はみな、内府は臆病だ、と笑いました。若州少将[木下]勝俊は、ちょうど秀吉の本妻[大政所(注9)ねね]に侍して王京にいたのですが、家康が今にもやってくると聞き、黄金40余錠(注10)を費やして、接待の準備をしました。[しかし、]病気だと言っているのを聞いて、大変失望した、とのことです。
清正らの欲しているのは朝鮮にあるのではないので、家康は、いまだかつて、この輩のことを一日たりとも忘れたことがなかったのです。
日本は、数百年来四分五裂し、関東が一国となり、奥州が一国となり、中国が一国となり、四国が一国となり、九州が一国となりました。[織田]信長が立つようになって、暫くの間[日本を]統合しましたが、その末年には、元に戻って、また分裂してしまいました。
秀吉が立ってから、またしばらく統合しましたが、今はその本人も死んでしまい、その[情]勢はまた分裂しそうです。もし、ふたたび分裂すれば、のちに必ずや秀吉のような者が更に生まれ、その後、朝鮮が再び兵渦を受けるでしょう。
しかし、世の中のことは、朝にかわり、夕にも変化するものか、あるいは、終始固定不変な物か、それは知ることができません。
家康は、広[い領]土と多数の民衆を擁し、両部の[有利な]形勢によって諸倭に号令しています。心服する者は少ないとしても、やむを得ず服従する者は多数です。[ですから、]しばらく敬遠して様子を見るのが、貴国としては得策です」
<[以上の言は、]嵯峨院の倭、与一(注11)の言葉であります>
[毛利]輝元の参謀僧、安国寺[恵瓊]は、常日頃その国政に与っています。その左右[にいる者]は、みなわが国の人たちで、国を思う心を忘れてはおりません。[それで、]通りがかりに、秘密裡に招いて問うてみたところ、
「数十年は、きっとその朝鮮を犯すという心配はありますまい。倭の輩はちょうど桟豆を争っていて(注12)、心配事と言えば簫しょう(注13)であります。何の暇があって他国の侵略に及びましょうか。云々」
とみながそう申しました。
「詣承政院啓辞」p.207-210
(注1)舜首座→藤原惺窩 この頃はまだ相国寺僧侶
(注2)大丘→大邱のこと
(注3)寝める→「やめる」と読む
(注4)理安→吉田意安(宗旬)の弟子。詳細未詳。
(注5)家康の長子三河守→もう何回も指摘したが,この当時徳川信康は既に故人。結城秀康と間違っているかとも考えたが、官名が違うし…。
(注6)子弟を人質~清正、越中守らだけには実母か実子を→細川忠興がこの時に三男・忠利を人質に出したため、忠利が後の家督継承で有利になったのは有名。加藤清正は人質出した記憶がない。えらい方のコメントお待ちしてます<(_ _)>
(注7)倭の皇帝→後陽成天皇 慶長5年の正月に後陽成天皇が家康に謁見したかどうかは管見では不明。
(注8)清正らが、武装兵を領いて~内府は~上京しませんでした→こういう話は寡聞にして聞いたことがない。史実はどうだったのか。これも詳しい方の御教示おまちしてます。
(注9)大政所ねね→ねねは政所なので、これは訳者の方のケアレスミスかと。ちなみにねねは木下勝俊の叔母になる。
(注10)錠→金を計る単位。時代によって形状も重さも変わるので簡単に現在の価値に換算できない。この辺の説明もご参照下さい。
(注11)与一→角倉素庵(了以)。先述(注4)理安の師匠・吉田意安は実弟。
(注12)桟豆を争っていて→『晋書』宣帝紀の「ど馬が桟豆に恋々とするように、使うに耐えない」と言う記述から来ている。つまり、「つまらない争いごとをして」という意味
(注13)簫墻→「しょうしょう」と読む。「墻」は「牆」の誤字。『論語』季氏編の「吾れ恐る、季孫の愁いはせんゆに在らずして簫牆の内にあらんことを」と言う文から来ている。つまり「内乱の恐れ」の意味。

こちらも前回同様かなり通説と違うというか、姜沆はガセネタつかまされた感が強いんですが(^^;)
上の文を見ると、どうもガセネタの元というのは小早川秀秋のように思われます。
(1)「舜首座」こと藤原惺窩が「今度は徳川家康が朝鮮に攻めようとしている」と言っているが、藤原惺窩の弟子の一人が小早川秀秋で、とりわけ上記の話は直接秀秋から聞いたことになっている。
(2)理安が(1)同様のことを言っているが、「小早川秀秋の所から来て」と明言されている
姜沆は『看羊録』を見る限り、小早川秀秋と直にあったことはないようなんですが、姜沆の情報源に小早川秀秋に縁のある人物が多く、秀秋ルートのガセネタが大量に流れ込んだ物と考えられます。
なお、秀秋が何でこんなガセネタの元になった理由は不明。多分戦略とか考えがあって流したわけではないと思います。秀秋の立場が微妙すぎてこんなガセネタしか持ってなかったのではないかとヾ(^^;)



おまけ

さて。姜沆が「打倒日本!」を掲げて命の危険を顧みず書いた「看羊録」なんです

約100年後、とんでもないことに…

1719年(享保4年)、徳川暴れん坊吉宗の就任を祝う朝鮮通信使で書記官を務めた申維翰。道中を「海游録」と言う日記に書いています。その頃の朝鮮では書籍が中々手に入りずらかったのか、途中で立ち寄った大坂で本の買い出しに精出していた(p.245)ようなのですが、申が本屋で見たものは
 朝鮮出兵の時に豊臣秀吉への通信使になった金誠一が書いた「海槎録」
 朝鮮出兵時の宰相だった柳成竜が書いた反省記「懲毖録
 そして今回のネタ「看羊録」
これらは朝鮮王朝の対日本重要資料としてどうもマル秘資料だったようなのですが、大坂の本屋で普通に販売されていたみたい(爆)。申は「賊を調査しながら賊にその調査内容教えてるのと一緒、国の規範が緩んで末端の役人がたるんでいるからこの有様だよ!。・゚・(つд∩) ・゚・ 。」(ばんない意訳)と嘆いています。

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無題
看羊録おもしろいですね。読んでみます。家康の長子三河守はやっぱり結城秀康みたいです。wiki情報ですけど。
書き人知らず 2016/11/19(Sat)01:03:48 編集
三河守=秀康
コメントありがとうございます。

「長子三河守」は結城秀康、ですか。余り詳しく調べなかったので、そこまでつきとめられませんでした。情報ありがとうございました<(_ _)>

また、次回コメント頂けるときには、適当なハンドルネームを名乗って下さると嬉しいです。宜しくお願いします。
ばんない 2016/11/21(Mon)17:59:31 編集
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