『土芥寇讎記』に出てくる島津さん。其の六（完結編）

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前回に引き続き佐土原藩ネタです。
佐土原藩自体の説明に入ります。

　系図　松平薩摩守綱貴の中にある
居所は日向国の中の佐土原江戸から海陸で２９９里本 領は３７０００石。但し、これは薩摩守（島津）綱貴の本領から分割された物である。新地開発や、運上、課役や掛物などを併せると都合５００００石あまりに なると聞く。かなり昔の検地なので、よく分からない。米は良くとれる。（つけの）払い具合は悪い。年貢は４公から５公。家来には大概土地を支給してい る。（参勤交代で）江戸にいる年は（土地の持ち高）１００石につき四人扶持とする。この他に摸合（＝援助金）もある。（家来は）古くからの者ばかりで、外 様者はいたことがない。但し、諸芸に秀でた者がいたら召し抱えて江戸詰とする。総じて家臣への支払い状況は良く、会計状況はよい。土地は鳥獣や魚・柴・薪 になるような木は多い。土地の質は「中の下」である。民間は最も豊かに暮らしている。城下、国の東には海辺があり、物は自由に手にはいる。同国県（＝延 岡）へは３２里、財辺（＝高鍋）へは３里、飯肥（「飫肥」の誤字か）へは１４里、薩摩国加児島（鹿児島）へは４２里ある。

「系図」…「島津綱貴」項の中にも載ってないんだが…ヾ(--;)
※『土芥寇讎記』はこういう勘違いが多い。実は完成されてないのではないかと言われる所以。

ここで最も興味深いのは「佐土原藩領は元々鹿児島藩の石高に含まれる」という見解が示されている点です。つまり佐土原藩は鹿児島藩の支藩！…ということですね。佐土原藩の成り立ちを見ると、鹿児島から分知したわけではないので支藩ではないのですが、前回まで話したような鹿児島藩の介入などから、元禄頃には「佐土原藩＝鹿児島藩支藩」という認識が広まっていたことが伺えます。
あと
・家臣は昔から使えている者が多く、後から雇った者は一部の例外を除いていない
・家臣には直接土地をあてがっていること
・付けの支払い状況は悪いこと
という点で、本家と全く同じ(^^;)なのが興味深いです。
次に家老の記述があります。

家老　　　　　　　　　須山次右衛門
渋谷大蔵

…佐土原藩は、鹿児島藩から出張して定着した子孫が多いので、知ってる名前が多いかと思ったが、一人もいなかった(T∀T)

次に久寿の評価が書かれています。

久寿は学問を学ばず、武道を好んで、勇敢なることを旨としている。父の行跡に似ていると思われる。しかし、性格は穏和で、悪いことはしておらず、正道を守っている将と言えるであろう。

…この直後に、混乱の責任を問われて幕府の介入を受けて佐土原藩を追い出されちゃうのですから、悲惨な物ですが…改易されなかっただけでもマシか。それはこの久寿の人徳による物だったんだろうか。ちなみに佐土原藩を追い出された久寿は、その後幕府直属の家臣（旗本）となったのは前回も話したとおり。

引き続き、『土芥寇讎記』著者の私見が書かれています。

噂に寄れば、この人は文武を会わせて学ばなかったのが不足な点である。しかし、武道をたしなみ、その一方で柔和な性格で家来や民間に恵みをたれ、行状も正 しく、順序正しい方法をもっぱらの政道としている点は、誠に主将たる者の本意にかなっていると言える。武勇を旨とし、道を守っている以上、所行が乱れるよ うなことはない。本文に書いたように、誠に「有道の主将」という人物である。ただ、父親（＝島津忠高？久富？）の時から今に至るまで、新規雇い入れの家来 が集まるときには酒を禁止していると言うが、実際は飲酒が酷い状況だと聞いた。飲酒宴会は外様・譜代の家来共に禁止するべきである。酒は精進する気持ちを とろかし、本性を乱す「狂い薬」である。酒興におぼれてしまっては、公私の用向きに怠りが出るばかりでなく、身体の内にも傷となって、体をこわしてしま う。一端酒の味を覚えてしまうと、１００年の命も短くしてしまうというものである。口惜しいことだ。慎まざる時は、大きな不覚をしてしまうものだ。たいて いの場合ならば、非難するに及ばない。

…本人はともかく、家来には酒乱の気があったようで、そこを糾弾されてます。厳しいのう…。気になるのは、宴会の酒の有無にも旧家臣と新家臣の区別があったようで、その辺が家中の内紛になり、久寿の失脚につながったような気がします。

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『土芥寇讎記』の島津さんの紹介は以上。
他に２５０人以上の殿様が紹介されているのですが、まあ、みなさん、無茶苦茶書かれてますヾ(^^;)。綱貴はその中でall５に近い激賞ぶりで、これに匹敵する誉められ方をしているのは加賀藩・前田綱紀ぐらいでしょうか。久寿は…同年解任されちゃう殿様にしたら、かなりましな方だと思います…。